走馬灯のセトリは考えておいて

全体的に not for me という感じだったけど、表題作はめちゃくちゃ良かった。

表題作だけめちゃくちゃ良くて、他の作品いらなくねえか?って思ったけど、表題作の面白さはそれ以前に収録されてる作品が下地を整えたうえでの面白さだと思うので、本全体としては良い本だったのかもしれない。

表題作以外が面白くないか?というと、そういうことでもなくて、単純に俺がSFの短編集だと思って読み始めてしまったのが良くなかった。

「オンライン福男」 は近未来SFという感じで、まあ面白いなと感じたものの、なんか、こう「赤ふぁぼとかで喜んでた時代にめちゃくちゃ面白かった人が書いてそうだな」みたいな感想だった。自分で書いてから、これ悪口じゃね?ってウケてるけど、良くも悪くもある評価という感じ。

「クランツマンの秘仏」は、「オンライン福男」との流れで、宗教とか民俗学の分野をSF的に描いてるのが面白いなと感じた。が、なんというかファンタジーでもサイエンスフィクションでもなんでもそうなんだけど、読んでいる間は本に書いてあることを信じさせてほしくて、俺は宗教とかそういうものに対する教養が無いので、これを読んでいても書いてあることが「嘘なんだな」って感じて冷めてしまって良くなかった。話自体は面白かった。

そっからはもう冷めちゃって惰性で読んでたんだけど「絶滅の作法」は結構好きだった。

「火星環境下における宗教性原虫の適応と分布」はまあSFのSは宗教のSって感じで題材自体は面白いと感じたものの、前述のとおりめちゃくちゃに冷めてしまっていたのでア~嘘乙って感じで流し読みしてしまった。本を読み終わった後でAmazonのレビューを見たら、この話が好きだというレビューが幾つかあったので、勿体ないなと思った。

「姫日記」は……ここまで読んだし我慢して表題作まで読み切るぞって……。

表題作の「走馬灯のセトリは考えておいて」は本当に良かった。冷めた状態で読んでも面白かったし、良すぎてちょっと泣いた。

「お互いに触れることはできないが、身長差を埋めるように男性がわずかに屈む。埋めるべき距離は数十センチだが、それは此岸と彼岸の距離でもある。」

—『走馬灯のセトリは考えておいて (ハヤカワ文庫JA)』柴田 勝家著 https://a.co/7Jfb5i2

読みながら良いなあと思った一節だけど、これラストにちょっと繋がってる感じがあって良いな。

という感じで、全体的には良い本だったと思う。