面白かったは面白かった。いや、なんか面白くない側面もある感じの表現になったけど、内容は面白かった。って感じの本だった。
この本は最初に謎の独白的なやつの後に「週刊誌の事件記事」みたいなのが書かれてから、どういう繋がりがあるか分からん人たちの視点を移り変わりながら物語が描かれていく。この登場人物たちが最初に描かれてる文章が、だいたいその人物をキモくというか、悪いところをわざと強調して書かれている感じがして「この作者の文章いやだな~」って思いながら読んでた。
「絞った雑巾から滲み出る汚水のような泣き声が、夏月の耳にも届く。」
—『正欲(新潮文庫)』朝井リョウ著 https://a.co/650a1jq
これは卒業以来会ってなかった学生時代の知り合い夫婦の子供の泣き声の描写。ここら辺「いやだな~」と思いつつ、最後の文章のキーワードを繋げて、しりとりのように視点を移っていくのが良かった。しりとり的な文章の繋がりとか、出来事とかを色々と繋いでいって全貌が明らかになっていくんだけど、その繋げ方とか、少しずつ物語で描きたい内容が明らかになっていくのが面白かった。
そういう文章の作り方的な面白さはあるんだけど、序盤では登場人物をキモく描こうとしているように感じられる描写が多かったのに、中盤以降では同情させようというか、それぞれがそれぞれに可哀そうに描こうとしている感じがして、う~ん?ってなった。序盤の「いやだな~」を抜けてからは文章自体も内容も楽しめた。
少し前にポリコネとか多様性とかそういうキーワードが流行って、多様性を受け入れよう!みたいなのがあったと思うんだけど、この物語は多様性の中でもマイノリティのさらにマイノリティの人たちを中心に描かれていく。「マイノリティのさらにマイノリティ」という表現もこの本を読んだ後だと、なんというか難しいなあと感じながら書くことになる。
ここまで書いてから気付いたんだけど、序盤はマイノリティ側をキモく描いて、マジョリティ側を正しい人間のように描いていたので、たぶんそこらへんも意図的にそうしてるんだろうな。最後に出てくるマジョリティ側の人間はめちゃくちゃキモく描かれているので。
そう考えると、そういう移り変わりも含めて物語の構造に沿っているので、「面白かったは面白かった」って感想から「面白かった」って感想になるな。
終盤のこの表現が良かった。
「誰かを退かすためではない自転車のベルの音なんて、久しぶりだ。」
—『正欲(新潮文庫)』朝井リョウ著 https://a.co/4GhOJG7